2012年御翼6月号その1

「誓い (The Vow)」

 米国ニューメキシコ州ハイランド大学の野球部の監督キム・カーペンターは、クリスチャン女性クリケットと大恋愛の末、1993年9月18日、結婚した。式から僅か10週間後、二人は交通事故に遭い、妻は意識不明の重体、夫はろっ骨や手を骨折した。入院先で妻は意識を回復するが、頭部外傷により過去18カ月の記憶を失った。自分が結婚したことも覚えていないし、夫が認識できないのだ。退院後、夫は自分たちの結婚式ビデオまで見せるが、彼女の記憶は戻らない。二人が出会い、デートを重ね、結婚するまでの1年半の記憶が失われた。妻にとって、リハビリを手伝う夫は、自分を厳しく扱う病院のスタッフに過ぎず、彼女は彼を嫌っていた。夫にとっても、かつて恋した妻はそこにはいなかった。このようなケースでは、8〜9割のカップルが離婚するという。
 しかし、妻には、神のこと、教会、聖書のことなどははっきりと記憶にあった。そして、幸いなことに、神への信仰を持って懸命に生きようとしていた。二人とも14歳でイエス様を救い主として受け入れていたが、夫の方はカトリックの家庭に育ち、教会に通う環境ではなかった。妻クリケットは受洗後も教会に通い、イエス様と共に歩んできた。そんな二人だが、最初の結婚式での「誓い」に忠実であろうと決めた。特に妻は、記憶にない夫に対し、健やかな時も、病む時も、愛し、敬い、慰め、助けようと決めた。その頃のクリケットの日記には、以下のような祈りが記されている。「主よ、私たちの命を事故から救ってくださり、感謝いたします。どうぞその命を、あなたのご栄光のために用いてください。あなたが、二人の間に起こる感情を修復してくださると信じます。結婚の絆を、最初のときよりも強めてください。私の力ではどうすることもできません。私たちの結婚の中心にいらしてくださいますように。互いを尊敬し、愛せますように」と。問題は大きすぎるように思えたが、神にとってはそうではなかった。ある日、妻が療法士にこう言った。「よく電話をくれて、一緒にいてくれるあの男性(夫)がいないとさびしいわ」と。それを聞いた夫はなお一層、彼女と一緒に時間を過ごすように心掛けた。すると、妻がこう言いだしたのだ。「かつてこの男性(夫)に恋をしたというのなら、もう一度、それができるかもしれない」と。先は暗く、希望がないように思えても、二人とも神への信仰という糸で結ばれていたのだ。
 夫は、カウンセラーに相談した。「そもそも、どうして奥さんはあなたと結婚したと思いますか?」と尋ねるカウンセラーに、夫は答えた。「彼女を、ただ付き合いたい女性としてではなく、一人の人間として関心があったからだと思います。私たちは恋する以前に、魂が触れ合う友だったのです。クリケットには、キリストへの驚くべき信仰がありました。実際、最初に会った日、一晩中、ヨブ記を共に読んだのです」と。「今は彼女にどう接していますか?」「まるで父親か監督のようです」「そうだとすれば、彼女は父親と結婚しているように感じているのでしょうか…」とカウンセラーは結んだ。次のカウンセリングで同伴した妻にカウンセラーは言った。「奥さん、あなたには、夫と出会い、デートし、結婚に至るまでの記憶が何もないわけですよね」と。驚いたことに、それまで彼女にこう言ってくれた人はいなかった。とたんに妻の表情がぱっと明るくなり、「それだわ!どうりで、何か変だと思った!」と叫んだ。彼女は、夫を愛するまでに至った過程を失っていたのだ。そこでカウンセラーは、二人が初めて出会った時から、互いを知り合い、恋に落ちるまでの行程をすべてやり直すことを提案した。そして、新たな思い出を作ることで、二人の絆を結ぶ新しい感情が生まれるはずだと言った。そこで夫は、結婚前と同じように、妻をデートに誘い、野球観戦や映画に行き、友達を交えて食事をし、彼女の失われた記憶を埋めることにした。1996年のバレンタインデー、キムはクリケットに二度目のプロポーズをし、彼女は喜んで受け入れた。二度目の結婚式は、一度目と同じドレス、同じ指輪で行い、新婚旅行も同じハワイに行った。しかし、一つだけ大きな違いがあった。式にはメディアが集結していたのだ。CBSテレビ、新聞社、雑誌社、ABCニュース…。夫は大学野球チームの監督であったため、二度目のプロポーズをしたことがローカルニュースとなり、やがて反響を呼び、AP通信に配信された。二人は、この出来事を通して二人の神への信仰が表され、世の人々に希望を与えたいと願っていたのだ。ドブソン博士のフォーカス・オン・ザ・ファミリーでも取り上げられ、「離婚を考えているならば、もう一度、配偶者をデートに誘い、最初から結婚を築き上げ直してみては?」と博士は記した。2012年、この物語はハリウッド映画になり、これまでにメディアを通して6億人が二人の物語を耳にしているという。現在、二人の子にも恵まれ、一家で教会に通っているが、夫婦は、教会、結婚セミナーなどで数々の講演も行っている。
 夫は、最初の結婚よりも妻をより深く愛していると言う。そして、妻は夫へのメッセージをこう記している。「私はあなたを、終わることのない愛で愛しています。1993年9月18日(最初の結婚式の日)、私は誓いを立てました。あなたも誓約に忠実であり、私をイエス様のような無条件の愛で愛してくださり、感謝しています。あなたは本当に素晴らしい夫、子どもたちにとっての父親です。イエス様、感謝致します。イエス様故に、私は正しいことを行い、すべてを献げました。主イエスにすべての栄光と誉れがありますように」と。そして、フィリピ4:13「わたしを強めてくださる方のお陰で、わたしにはすべてが可能です」を引用している。 このイエス様への信仰があれば、どんな困難も、神の愛から私たちを引き離さないのだ。

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